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コラム
富田 たかし先生
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「アクアライフコミュニティーが地域社会に元気と希望を与える」をテーマに、
便利さや効率を目指すことで失ってしまった私たち日本人へ、人間力向上を促す「文泳両道」で心の栄養や癒しを補給する各種オリジナル・ビタミンをシリーズでお届けいたします。
ご案内役は、テレビやラジオでおなじみの心理学者・富田たかし先生です。

今回は、オリンピック水泳選手の登竜門、全国ジュニアオリンピックカップ大会実行委員長、(財)日本水泳連盟理事であり、千葉県柏市で柏洋スイマーズを運営している鈴木浩二さんをゲストにお招きして、7回のシリーズ連載でお届けいたします。

ビタミンH(心構え)の補給で、人間力向上の効果が出る
鈴木 浩二氏
富田 たかし先生

第六節
子供に立ちはだかるプレッシャーを緩和するのも、
教育者や親の勤め

富田氏
試合前など、プレッシャーがかかる場合も数多くあると思いますが・・・。
鈴木氏
それもありましたね。
やはりジュニアオリンピックだったのですが、当時、まだ柏洋に優勝の歴史がなくて、私自身もコーチとして子供を優勝させた経験がなかった。ところが、予選1位で、最終組のセンターコース。12歳の背泳ぎの選手だったのですが、もうガチガチです。私自身も一緒にガチガチで、ちゃんとストップウォッチを押せないほどでした。(笑)
真剣に勝たせようと思ったら、C級の大会でも、ジュニアオリンピックでも、オリンピックでも、大会の規模もレベルも関係ありませんね。
そこで、レース前日に選手を呼んで、「コーチと君は、できる限りのことを100%こなしてきた。自分達以上の練習をした奴は、日本中、どこにもいない。だから、明日は優勝する」って話したんですね。優勝すると思いこめばいいんです。
さらに、「明日、優勝して誰に感謝すべきか」って話をしました。
まず、コーチには感謝するだろ・・「はい、します」(笑)
朝練に車で送り迎えしてくれたお父さんにも感謝するよな・・「はい、します」食事を作ってくれたお母さんにも感謝しなきゃな・・「はい、します」。
感謝できることを一つ一つあげていきました。
それで、プレッシャーを取り除く思惑もありましたが、なによりも勝って天狗(てんぐ)になって欲しくなかったんですね。
富田氏
レース前に、その後の対応を考えさせるっていうのは、素晴らしい方法ですね。
鈴木氏
彼はその後、有名大学の主将にまでなりました。
強ければ、早ければ、なんでもいい・・じゃない。「他人をけ落とすのではなく、最高の準備をしたんだから、優勝するんだ」、「勝ち負けではなくて、最高のことをやって来たんだから、最高の結果が得られる」って考え方ですね。
富田氏
レースの技術的なアドバイスもされましたか・・?
鈴木氏
ターンで並んだら、お前に勝てる奴は一人もいない、と。スプリント力がないので50mではだめでしたが、100mなら、ターンの後はお前に勝てる奴はいない、と話しました。
レース後、本人に聞いたら「ターンで並んだから、もうもらった」って。こっちはターン後も不安でどうしようもなかったんですが(笑)
富田氏
でも、レース前のアドバイスは、とても繊細な問題でしょうね。助言のはずが、返って選手にプレッシャーをかけたり、萎縮させたりってこともあるように思えますが・・。
鈴木氏
そうですね。以前、決勝に進出した11歳の選手に、最後の7mは息継ぎをするなって、コーチを通して指示を出したことがあります。よけいなことは、考えるな。みんなが苦しい最後の7mを、精一杯キックして呼吸しないでゴールする。練習の時にも、そんなアドバイスは一回もしたことがなかったんですが。
富田氏
そのへんは、コーチの存在意義が大きいですね。その子のできることだけに集中させる。
鈴木氏
そうですね、その場でメダルのことなんかコーチが口にしたら、フライングで失格したっておかしくない。
富田氏
確かに、本人は初めての決勝進出で、緊張の極致にいるわけですよね。
鈴木氏
そうしたアドアイスで、選手のプレッシャーを少しでも軽減してやることが重要です。
要は年齢が低いほど、他人を意識させないことですね。自己のパフォーマンスを最高にすることだけに集中させる。勝負にこだわるのではなく、自分を最高点に持ち上げること。すると年がいくほど、力量が上と思われる選手にも勝てるチャンスが生まれます。
鈴木大地選手がソウルオリンピックで勝ったとき、予選ではアメリカのバーコフ選手が1秒も上回る世界新記録。普通に考えたら勝ち目はありませんよね。でも、選手本人は、本気で勝てると思っていました。
富田氏
わっ、それはすごい自信だなー
鈴木氏
で、決勝になるとバーコフ選手は最初にスターティングポジションについて、その時を待っていました。まだ、鈴木大地選手は、流して泳いでいるのに(笑い)
大地選手が悠々と最後に着いて、いざスタートになると、バーコフ選手はすっかり固まちゃってました(笑い)
スタートすぐに、もう鈴木大地選手が半身長リードしていましたよ。そのとき、たまたまアメリカチームの近くにいたのですが、ブーイングでした。(笑い)
富田氏
宮本武蔵を知らないからなー(笑い)
でも、勝負を楽しむというとても高い次元の話ですよね。
鈴木氏
そのときの鈴木陽二コーチは、決勝の前に、マッサージを自ら買って出て、お前の方が強い、お前は勝つと語りかけていたようですね。
でも普通はコーチの方が硬くなって、言葉なんかでないですよ。オリンピックの決勝ですから・・。今思えば最高にリラックスした状態でレースに望めたんですね。
富田氏
最高の催眠暗示法ですね。素晴らしい。(笑い)
鈴木氏
その後の水泳日本の金メダルも、やはり鈴木陽二コーチの存在が大きいです。
富田氏
金メダルを取った選手は、間違いなく高い潜在能力は持っていたと思うんですが、それが活かされるかどうかですね。やはりコーチなり監督なりの存在が極めて大きいのでしょう。

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