第三節
「知っている」と「理解している」の違いを明確にすることが、
教育者の養成につながる
富田氏
最近の子供たちは、昔に比べて好奇心が衰えている気がしますね。
鈴木氏
「なぜ」って、疑問を持たないですね。どう要領よく記憶するかの訓練で、「なぜ」を勉強しようとは思わない。伝える悦びを知らないから、みんなが知っている常識的なレベルで十分だと思い込んでいる。
富田氏
テストに答えられればそれで満足。それが自分の血や肉になっているかどうか・・本来は、人に教えようとしたときに欠けている部分に気づいたりするものですが・・・。
鈴木氏
ボクがインストラクターを教育するとき、「知っている」と「理解している」とは別物と話します。理解していないと、人には伝えられない。もし、うまく伝えられなければ「知っている」という振り出しに戻りなさい、と。人に伝えられて、あなたは始めて理解したんだよ、と教えています。そのために自分だったら、人にどう伝えるかを考えて、人の話を聞きなさい。
そうすると、はじめてメモを取るようになる。(笑)
富田氏
それで学んだことが、はじめて血や肉になるってことですね。
鈴木氏
いまでも、「なぜ」を「なぜ」のままにしておくのが嫌いです(笑)
富田氏
さっきの子供の育つ力と関係がありそうです。暗記するリストだけ渡されて、それを順番に頭に刻んでいくってことしかない。すると、その知識を活かして、自分の好きなこと、夢中なことに活かそうという発想が生まれてこない。
鈴木氏
中学校の時に、先生が「鉄はFe」っていうから、「なんでFeなの?」って質問したら、「覚えればいいの!」と言われて、この先生の授業は聞かないぞって思ったことがありました。(笑)
富田氏
それを教えてくれるのが、本当の先生ですよね。もちろん授業時間の制約もあるでしょうが、いまの教育には、何でというのを自分で考えて、まとめる余裕はないのかもしれない。
たとえば、スクールで子供たちが、なんでその手の形だと早く泳げるんですか、といった質問をされたときに、コーチの方は、どのように指導するんですか?
鈴木氏
基本的にフォーム指導を形から入ると、うまくいかないですね。
たとえばクロールで肘を曲げて抜き上げるようにと、形だけ指導してもだめです。筋肉や関節の働きや使い方から進めるとスムースに伝わるものです。面倒だからと、それをはしょって、理想の形だけ身につけさせるのは、コーチの一人よがりです。それまでのスタイルを変えるということは、子供に無理を強いることです。
普段右手でお箸を使っているのに、いきなり左手でと言われても、とまどうだけです。さらに、コーチは力も抜けと言いすぎるんですよ。フォームを変えたら、箸を持ち変えるように、力が入ってしまうものなんですね。力が抜ければ、泳ぎとしてはほぼ完成段階にあるんですが、そこに気づくコーチは少ないですね。
富田氏
合理的に教えることの難しさなのでしょうね。
鈴木氏
ただ、今の子は素直ですよ。昔は初心者の9割ぐらいは膝が大きく曲がって水面をたたくバタ足でした。それを直すためにどれほど苦労したか・・親指が腱(けん)鞘炎(しょうえん)になるほど(笑い)
それが今の子は、水の中でキックしなさいというと、すぐ膝の伸びた良いキックになる。柏地区の子の素質が、20年でそれほど変化したとは思えないのですが、コーチの指導法で、いかようにもなる。その素直さが今の子はあるような気がします。「なぜ」と深く考えないことの功罪でしょうか・・・。
富田氏
「なぜ」という質問が出ることは、すなわちレベルが高くなっている証明なんでしょうね。
鈴木氏
そうです。でもそれに答えるには、非常に高いコーチの技量が必要となるでしょうね。
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