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コラム
富田 たかし先生
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「アクアライフコミュニティーが地域社会に元気と希望を与える」をテーマに、
便利さや効率を目指すことで失ってしまった私たち日本人へ、人間力向上を促す「文泳両道」で心の栄養や癒しを補給する各種オリジナル・ビタミンをシリーズでお届けいたします。
ご案内役は、テレビやラジオでおなじみの心理学者・富田たかし先生です。

今回のゲストは、新潟でスイミングを3スクール運営している株式会社ダッシュ専務取締役 桑原 進氏です。
ビタミンR(良い関係)で地域社会に元気と希望を。
水を通して、「生きがい」や「人間力向上」を還元する

のテーマでお届けいたします。

ビタミンR(良い関係)で地域社会に元気と希望を。
桑原 進氏
富田 たかし先生

水を通して、「生きがい」や「人間力向上」を還元する

富田氏
今年も昨年に続いてCSR活動の一環としてイベントを行われたようですが、いかがでしたか。
桑原氏
はい、昨年、たいへんな好評をいただいた効果か、今年もおかげさまで大盛況でした。
富田氏
皆さんのコミニュニティづくりの成果が現れているんですね。
桑原氏
ええ、地域の皆様に喜んでいただけるのが、最高の喜びですね。クラブの近くに大学が数校あるのですが、そこの学生さんが、ボランティアで手伝ってくれたり、少しずつですが、輪が広がっています。
富田氏
そうですか。私も昨年、参加させていただいて、ダッシュさんの会員さんには、人と人の関係作りに長けた人がいることを、強く印象づけられました。いくら恵まれた場があっても、そこで積極的に動く人がいなければ、うまくいかない。スタッフだけがしゃかりきになってもだめなんですね。ダッシュの場合は、アクティブな会員さんが上手に参加されていて、よい効果を生んでいるという印象が強かったんです。特に新しくなにかを始めようという時には、積極的に関わる会員さんの存在は不可欠ですね。そうした意味で、ダッシュさんは恵まれているし、地域との関係の深さを感じます。
桑原氏
はい。人との「つながり」を持つということが、私たちの昔からのクラブコンセプトでした。私たちのような小さなクラブは、大手と違って、会員さんとの濃密な関係が生命線だと思ってきました。ただ、それが本当に正しいやり方なのか…正直、不安もありました。でも、あの大水害で、会社の存続が危うい時に、これまで培ってきた人とクラブとの関係が、復興への最大のパワーになったことは間違いありません。たとえば、83歳のおじいちゃんが、朝、泥水をかぶったプールに、自転車をこいで来てくれて「ダッシュさんに来るのが、私のライフワークみたいなものなので…」と言ってくれたり、スナックのママさんがスッピンで励ましに来てくれたり、たくさんのそうした周りの方のパワーが、再建の大きな原動力だったと感じています。そんな中で、昨年、富田先生にもご参加いただいて「ムーブ」という企業市民としての役割を担ったイベントを開催したんですが、おかげさまで、これまで続けて来た「つながり」の大切さを実感する、格好の場となり、前よりも確信が深まった気がしています。
富田氏
確かに、昨年、それは実感しました。これが東京のような大都市だった場合、クラブに通って来る人の移動距離は、とても長いんですね。私が教鞭をとる大学でも、1時間以上かけて通学してくる学生がたくさんいます。一方、ダッシュさんの地域は、何万という人が、わりと限られた範囲で生活していますよね。ですから、会員が皆、顔見知りというのはオーバーにしても、やはり関係は濃いものになるのでしょう。
それと、やはり会員の中に、人間関係づくりにアクティブな人がいたこと、そして、その人がイベントに関して意気に感じて活動したことが大きいように思います。人は、なんの背景もなく意気に感じるってことはないですから、そこには、ダッシュさんの日頃の地道なコミュニケーション活動があって、だからこそ、水害後に多くの人がダッシュを心配して訪ねて来たんだと思うんです。
じゃ、具体的に、こうした人と人の深い関係づくりを、どうしたら築けるのか?
どこのスクールも試行錯誤していると思うんですが、ダッシュさんの場合も、三条校で成果をあげたから、他でも必ずうまくいくかというと、実はそうでもありません。
桑原氏
ええ。そうなんです。ご指摘の通りです…。ステージが違えばクリアの仕方も努力の方法も変わります。それに見合う知識と行動が必要と学びました。
富田氏
そこには、各クラブの規模や特色や集まってくる会員さん、クラブ側スタッフのキャラクターなど、それぞれの条件によって、導かれる答えも自ずと異なってきます。三条校の場合、模範回答のひとつには間違いないですが、でも、それが万能ってことでもないですね。
桑原氏
そうなんですね。ただ、どんな事例でも大切なことは、理想や目標にたどり着くまでの時間が大事だと話しています。
富田氏
心理学の世界に「冷たい傍観者」と呼ばれる実験があるんですが、例えば、一つの部屋をパーテーションで仕切って、そこに一人の男性を置いて、裏で女性の悲鳴をテープで流す。すると、多くの男性は、すぐに悲鳴を聞いたパーテーションの裏へ反応を示します。知り合い同士の2人の男性でも、同様に行動を起こす。ところが、面識のない男性を2人にすると、お互いの出方を観察するばかりで、反応しないんですね。つまり見知らぬ他者の存在が、お互いの行動意欲を奪ってしまう。ニューヨークなどの大都会で、人が倒れていて、皆が気づいているのに素通りするといった話を耳にすることがありますが、これなどそうした典型でしょう。
だから、三条校のように会員さん同士が、近隣に住んでいたり、PTAや、町内会、商工会など、どっかで繋がっている。そうした、まだ人と人の重なり合いが十分に期待できる街の規模であったこと、これは成功したひとつのポイントに揚げられるでしょう。それから、会員さんの中に、よりアクティブにイベントに参加される方が数人いたこと、これもラッキーだったと思います。そして、なによりも、常に新しいことをやっていこう、一見、不可能と思えることにでもチャレンジしてみようというクラブの姿勢ですね。
いま復興ができたから、外から見れば簡単なことのように思われますが、実はたいへんなことをやり遂げたわけですよね。
桑原氏
そうなんです。当時はただ必死でしたが、周りを見れば地域全体が被災して住むところも身体も心もボロボロの状態でしたから、環境としては劣悪でした……。
富田氏
昨年、お邪魔したときには、まだ仮設住宅で生活されている方がいらっしゃいましたよね。
桑原氏
ええ、被災した自宅より、仮設住宅は遠方なのに、それでもダッシュに来てくださった方がたくさんいらっしゃいました。家が被災して住むところがなくなっているのに、それでも月謝を払ってダッシュに通ってくださる。本当に頭が下がる思いと感謝の気持ちでいっぱいになりました。
富田氏
ねー、すごいことですね。それもこれも、ダッシュが腹をくくって再建に精力傾けた姿勢を会員さんに見せたからですね。もし、迷いを見せたら、誰もついてこなかった可能性だってあったわけです。
桑原氏
そうかもしれません。
富田氏
新しいことを始める勇気、困難に立ち向かう勇気、そういったものが今回は具体的な形で、人々の前に、ポンと示されたんだと思います。それが成功の最大の要因だと思います。

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