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コラム
富田 たかし先生
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「アクアライフコミュニティーが地域社会に元気と希望を与える」をテーマに、
便利さや効率を目指すことで失ってしまった私たち日本人へ、人間力向上を促す「文泳両道」で心の栄養や癒しを補給する各種オリジナル・ビタミンをシリーズでお届けいたします。
ご案内役は、テレビやラジオでおなじみの心理学者・富田たかし先生です。

今回のゲストは、セントラルスポーツ株式会社常務取締役で、鈴木大地(元オリンピック金メダリスト)など多くのトップアスリートを育成指導しているゼネラルコーチの鈴木陽二氏です。
ビタミンS(素直な心)は、トップ・アスリートの大きな武器である。
のテーマでお届けいたします。

ビタミンS(素直な心)は、トップ・アスリートの大きな武器である。
鈴木 陽二氏
富田 たかし先生

信念は持っていても受け入れる広い心がトップアスリートには不可欠である。人間力として信念を貫くために素直な心は幅の広い考え方を持つために重要な要素でもある。

富田氏
鈴木コーチは、これまで鈴木大地選手をはじめたくさんの一流選手を育てていらっしゃっていますが、ちょっと噂を耳にしたところでは、一目見ただけで選手として大成すると、おわかりになるとか・・・。
鈴木氏
いえいえ、そんなことないですよ。(笑)
富田氏
私たちは、「心理屋の心理知らず」で、あまり見る目がありません。(笑)むしろ、各分野の専門家の方が、人を見抜く力があるようです。私たちは、それができないんで、どうしても理屈から入ろうとします(笑)
鈴木氏
僕たちは、まず教える人間を知る所から入りますね。
富田氏
そうですよね。
鈴木氏
すると話をきちんと聞かないとわからない。
富田氏
それは大切なことですね。最近、心理学でも「傾聴」することの大切さが言われています。
鈴木氏
話を聞いて、その人間がどんなことを考えているのか・・。考え違いで才能が伸びない子も、少なくないわけです。
富田氏
話をしっかり聞かないと、考え違いしていることすら気づかないですからね。
鈴木氏
そうなんです。目標設定ひとつとっても、こちらと選手が一致しているとは限りません。
富田氏
そうでしょうね。案外、コーチと選手が、別の目標を目指しているってことが多いんじゃないですか?
鈴木氏
そうなんですよ。これを痛切に感じたのは、鈴木大地選手がオリンピックに出場する時でした。鈴木選手は、まだ高校生でして、これがまた、よくさぼるんですよ(笑)そこで、強制的にいろいろやらせるんですが・・。
富田氏
ほぉ、たとえばどんなことですか・・。
鈴木氏
遅れて来た時は、腕立て伏せ50回やってから、プールに入るとか・・。でも、こうしたペナルティが彼には、全然、効き目がないんです。
富田氏
さすがに図太いんですね(笑)
鈴木氏
そこで、本人にも目標設定の自覚が必要ですから、そのころから、よく話をするようになりました。ちょうど、オリンピックの前年でしたから、当然、こちらはオリンピックモードに入っています。ところが、本人に話を聞くと、高校のインターハイを目標にしてると言うんですよ。
富田氏
あー、それは大きなギャップですね。
鈴木氏
高校3年ですから、インターハイで優勝できれば、良い大学へ入れるという発想なんです。
富田氏
なるほど・・・。
鈴木氏
当時、鈴木選手は日本で7番手あたりの実績ですから、まだ、オリンピックという世界が具来的に描けないわけですね。
富田氏
その段階では、まだ本人も自分の実力に自信がもてないでしょうね。
鈴木氏
そうなんです。そこで、話し合ったんですよ。お前なら、頑張ればオリンピックも夢じゃない・・・。オリンピックに出られるチャンスがある人間は、本当に少ないのだから、トライしてみるべきじゃないか、と。
富田氏
話をして、変りましたか?
鈴木氏
ええ、それから本人が本気になりましたね。
富田氏
さぼりぐせも姿を消した?(笑)
鈴木氏
こんなに人って変るのかと感じたのは、その時が、初めてでしたね。
富田氏
インターハイで良い成績を残して大学へ行ければいいやって思っている人を、オリンピックに出場しようと思わせるのは、並大抵のことではないですよね。
鈴木氏
本人に直接言ったことはなかったですけど、僕は、それまでもオリンピックを目標にして、ずっと教えてきたわけですよ。
富田氏
オリンピック前年の話し合いが、ひとつの契機になったわけですね。
鈴木氏
ええ、ここからが真剣勝負だということで、話をしたんです。私生活も心配だったので、私の家であずかって寝食を共にしようかとも思ったのですが、それだけはやめてくれと・・
富田氏
勘弁してくれと(笑)
鈴木氏
しかたがないので、お母さんと話をしました。すると、大地は寝る前に壁に向かって「俺は、オリンピックへ行くぞ」と独り言を言っているっていうんです。それを聞いた時、よし、これならオリンピックへ行けるかもしれないぞ、と思いましたね。
富田氏
それはオリンピックのどれくらい前だったんですか
鈴木氏
約半年ほど前だったと思います。
富田氏
当時、コーチは大地選手を何年くらい教えていらっしゃったんですか?
鈴木氏
メダルを獲ったのが10年目ですから・・・。6年目の頃だったと思います。で、笑い話なんですが、その当時も何人かを指導してたので、、指導中に、僕は、他の選手を叱ることにより、大地にわからせるみたいなところがあったんですよ。そうしたら、その怒られ役だった選手が、今でもときどき僕の所へ来て、あの当時、僕が怒られ役だったから、今の大地があるみたいなことを言うんです(笑)
富田氏
それはいいなー。仲間としてのプライドですね。まぁ、中学生ぐらいからの付き合いでしょうから、選手間の関係もかなり濃密になるんでしょうね。
鈴木氏
そうですね。同じ苦しいトレーニングを経験していますし、文字通り同じ釜の飯を食って育ってますから、やはりあうんの呼吸みたいなものがあるみたいです。
富田氏
それも貴重な体験ですね。
鈴木氏
ええ、水泳はひとりでは頑張れないんですよ。
富田氏
そうですか・・・。一見、孤独なスポーツに見えますけれど。
鈴木氏
周りに一緒にいる仲間がいて、はじめて頑張れるんだと思います。マラソンも個人競技ですが、練習中のパートナーは不可欠ですね。あれと同じです。選手同士が話し合ったり、競争したりという関係が大事なんだと思います。
富田氏
そうしたチームとしての形態が出来上がってしまえば、指導者も安心して見ていられるんでしょうね。
鈴木氏
そうです。一番良いのは、選手間でそうした雰囲気を作り上げて行くことなんです。そこで、こちらとしては、できるだけそうしむけるようにするんですが、これがコーチングになるんでしょう。
富田氏
あー、そうなんですね。そのためには、ひとり一人を知らなければいけないってことになる。
鈴木氏
そうです。ひとり一人、みんなそれぞれの考え方がありますからね。
富田氏
いろんな子がいるでしょうねー。
鈴木氏
でもね、一線級になる子は、だいたい素直で純粋ですよ。僕の所の選手だけでなく、日本代表になるような選手は、みんな純粋な面がありますね。
富田氏
ひねくれた性格では、第一線の選手になれない理由があるんでしょうね。
鈴木氏
競泳って、プールを行って帰ってくるだけのシンプルなスポーツでしょ。だから、ひねくれた性格だととても頑張れないんだと思います。
富田氏
そうですよね。妙に考え込んでしまうと、やってることがバカバカしくなってくる。逆に言うと、そのシンプルな行為に楽しみや喜びを見つけるには、純粋でなければならないってことなのでしょうね。
鈴木氏
昔に比べると、今の選手は全体にレベルが上がっているんですが、まず意識が違います。
富田氏
ほー、そうなんですか?
鈴木氏
本気でメダルを獲ろうと思っていますよ。バルセロナ・オリンピックの時、背泳ぎの選手がいました。メダル候補の一人でしたが、金メダルには手が届かないと思われていたんです。ところが、その選手の競技前日に、岩崎恭子選手が金メダルを獲ったら、自分も!と思ってしまったんですね。
富田氏
頑張りすぎてしまった・・・。
鈴木氏
150mでトップに立ったんですが、最後に、失速しちゃいました。
富田氏
あ、それ記憶にありますよ。
鈴木氏
本人は、5mフラッグと15mのフライングロープを間違えたらしいんです。それで最後の最後でさされて4位でした。3位と4位では大違いですが、目の前で、仲間が金メダルを獲ると、じゃ「俺も金だ」となるんですね。こうした意識が昔より強いから、練習でも頑張れるのでしょう。現状、第一線の選手が目の色を変えて頑張るので、なかなか若い人が入り込む余地がないんです。
富田氏
上が詰まっている状態なんだ。
鈴木氏
ええ、若い選手がちょっと頑張ってすぐに代表になれる状況ではない。
富田氏
それだけ目標が高くなっているんですね。
鈴木氏
そうなんです。最近はハイレベルの戦いになっていまして、2000年以降は、ほとんどの種目で世界記録が塗り替えられています。理由のひとつは、スター選手が多数出て来たこと、もうひとつは、ヨーロッパの各国やオーストラリアのように、国を挙げてスポーツに取り組んでいる姿勢が目立ってきたことです。さらに、インターネットの普及で、トレーニング法がオープンになりました。そんなさまざまな要因で、本当に急テンポでレベルが上がっています。
富田氏
相互にもっと刺激し合う環境になっているわけですね。
鈴木氏
一昔前、日本の選手は、決勝に残れればいいって感じだったんですけど、意識が様変わりしましたね。
富田氏
オリンピックの選手選考もたいへんでしょうね。
鈴木氏
激戦ですが、水泳連盟の選考基準は、以前より明確になっています。予選でどんな記録を作っても、決勝で記録を残せなければダメなんです。北島康介選手のように実績があっても、決勝で負ければオリンピックには出られない。
富田氏
それはすごいプレッシャーだなぁ。それでも頑張り抜けるタフさはどこから生まれるんでしょうか。
鈴木氏
オリンピックに出たいという強い意欲でしょうね。
富田氏
オリンピックは、それほど強い動機付けになるってことですね。
鈴木氏
今の野球選手がメジャーを目指すのと同じですね。オリンピック選手に選ばれるということは、世界へのパスポートみたいなものです。日本チャンピオンといってもつぶしは効かないですが、オリンピック選手、それもメダリストとなれば、世界中どこでも一目置かれますから。
富田氏
メダルを獲得するまでの汗や苦労を考えれば、選手たちはもっと尊敬されるべきでしょうね。
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