アクアプロ
ホーム > コラム > ビタミンS(自信)
コラム
富田 たかし先生
プロフィール >>
「アクアライフコミュニティーが地域社会に元気と希望を与える」をテーマに、
便利さや効率を目指すことで失ってしまった私たち日本人へ、人間力向上を促す「文泳両道」で心の栄養や癒しを補給する各種オリジナル・ビタミンをシリーズでお届けいたします。
ご案内役は、テレビやラジオでおなじみの心理学者・富田たかし先生です。

今回は、世田谷スイミングの選手を取上げ、
人間力向上を促す「文泳両道」ビタミンS(自信)が内発性を生み出す
というタイトルでお届けいたします。

人間力向上を促す「文泳両道」ビタミンS(自信)が内発性を生み出す
村尾 清和氏

第2節
心身ともに体を鍛える

こんな一見、不毛とも思える戦いを強いられているスイミングスクールやクラブの中で、ユニークなカリキュラムと指導で、新機軸の可能性を探っているスクールがある。名前を「世田谷スイミングスクール」という。
このスクールのユニークな所は、水泳スクールを名乗りながらも、泳法の修得だけでなく、子供たちの「心」のケアにまで、大胆な一歩を踏み出した点にある。アドバイザリースタッフとして、テレビ・ラジオ、雑誌などメディアの第一線で活躍する心理学者、富田たかし駒沢女子大教授を起用して、従来では想像もできない、新しい視点から、スイミングスクールに求められている「なにか」や不足して「なにか」を、探ろうとしている。
最初にアプローチしたのは、コーチと子供たちの関係についての調査だった、やはり、このスクールのアドバイザリースタッフであり、長年、スイミングスクールの仕事に従事している、ケーネットの黒塚氏のもとで、いくつものスイミングスクールのコーチに、子供とのコミュニケーションをテーマに、アンケートが実施されている。それによると、多くのコーチたち、特に経験の浅い若いコーチの悩みは深い。
「落ち着きのない子が多い」「返事ができない」「何を言っても無反応」「目をあわせようともしない」という子がいる反面、「常に自分が中心でいないと気が済まない」といった例が上がるなど、千差万別な子供たちの反応は、泳法指導以前に、「関係づくり」に苦慮している現場の実態が垣間見える。
親でさえ、子供の思考回路を図りかねる時代だから、週に数回通ってくるだけの希薄な関係で、密なコミュニケーションを図ることは至難の業なのかもしれない、
さらに、世田谷スイミングの代表である村尾清和先生によれば、一般論として「これまでの蓄積が財産となって、各スクールの泳法指導マニュアルは、かなり質の高いものとなっています。ですから、今のコーチは交通整理係に似ていて、どんなコーチでもマニュアルに沿って、決められた時間を消化するだけで、7割がたは目標に到達できるのです」という。つまり、さほど子供との「関係づくり」などに気を配らなくても、マニュアルに沿って指導すれば、善し悪しは別に、それなりの成果は得られてしまう現実がある。事実、それで「よし」とするスクールも数多く存在する。
こうした現状について、富田たかし教授は、「スイミングスクールには、もっと他の役割があるのではないか」と指摘する。先のアンケート結果の中で、教授が注目したのは、「毎日、泣いて、泣いて、目を泣きはらしていた子が、5m泳げるようになったら、楽しそうに毎日通ってくる」、あるいは「それまで、無反応だった子が、15m背泳ぎができるようになった途端、積極的に話しかけるようになってくれた」など、課題を一つクリアーした後に見せる子供たちの変化だった。
「それまで、できなかったことができるようになったときに、子供たちは、輝くような笑顔を見せるものです」。それは「自発的に新しい物にチャレンジする、新たな意欲のサインです。それは、注意深く見ていないと見逃してしまうようなわずかなサインかもしれません。コーチは、そうした子供たちの微妙な変化を敏感に察知するアンテナが大切でしょうね」という。
さらに、こうした自発的なやる気や意欲と、いまの社会とを関係付けながら、富田教授は、次のように続けた。
「現代は、すべてがお膳立てされた社会といえるかもしれません。毎日の生活の中では、まるで自由奔放に好きなことをやっているように錯覚しますが、本当にそうでしょうか・・・。よく考えてみるとわかるのですが、一見、自分で選んでいるように思えても、実は人が用意したレールに乗っているだけという場合が驚くほど多いものです」
こうしたことを、富田教授は、まったく白紙の状態の中から自分自身で見つけだしたものではなく、他の人が用意したメニューの中から、単に選んでいるに過ぎないと分析する。ただ、「選ぶ自由」を与えられたに過ぎないと・・・・。
「例えば、パッケージの海外ツアーなどそのいい例でしょう。ニューヨークあるいは、ケニヤ、例え南極旅行であっても、食事から移動、観光など、すべてのスケジュールは分刻みで管理されています。選んだのは、行き先だけで、どのコースを選んだところで、本来の旅の醍醐味であるはずの世界各地での「体験」はさして代わり映えしないでしょうし、底の浅いものと言わざるをえません」
このパッケージツアーの話は、確かにそのまま現代の「習い事」事情に、当てはめることができそうだ。水泳、英語、塾に、音楽・・・なるほど、ジャンルは違っても、すべて受け身である。子供自身からすれば、自ら望んだ覚えなどまったくなく、「あ〜あ、この習い事さえなければ、もっとテレビゲームで遊べるのになぁ」が、本音かもしれない。なるほど、コーチの話に身が入らなくても、無理はない。
ところが、富田教授が触れたように、子供の顔が輝く一瞬がある。できないことが、できるようになった瞬間だ。
「子供場合は、最初は受け身であることも大切です。そこで学ぶことが多いのも事実ですから・・・。でも、ずっと受け身のままでは、たとえ技能は身についても、それを本当に楽しむところまではいきません。ところが、あるハードルを乗り越えたとき、アンケートにもあったように、学ぶ姿勢が一変することがあります、心理学的には、外からの力でやらされている状態の“外発性”から、自分自身で「本当にやりたいことを見つけた瞬間」であり、積極的にチャレンジする心が芽生えた“内発性”への転換といえるでしょう」
あまりに月並みな表現かもしれないが、「やる気の芽生え」といえるのかもしれない。確かに、泳ぐことが楽しくなれば、毎日プールへ通うのが面白くなり、泳ぎをマスターするスピードも格段にアップするに違いない。

ページのTOPへ▲